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もっと前に秋を期待していたから

9月11日

ママに “ラブレター” を渡すと約束してすっぽかした。どうせ裏切る、という事実と、大した出来ではない気がして。"Oliver's Army" と "What's So Funny 'Bout Peace, Love And Understanding" を一人、数年ぶりのカラオケで歌う。電気を消してボリュームを上げて、初めて歌うこの二曲を、20回ずつ、コステロのステップを踏んだ。長い素面の後、最初の生ビールの一杯。気力は計り知れず、明らかに、客観的に、a good singer に、数奇な昨日の空白の果てに成長していた。毎夜、伊達に酔って歌っていたわけではない、という怪しむべき肯定感さえ滲み出るようだった。


久しぶりに使ったリュックのポケットに、いつか開封したアメリカンスピリットが残されていた。休憩に一本だけ、と狭い喫煙室に入ったら、“不良” のなりの青年たちが四隅に座り込んでいた。沈黙が落ちた。娯楽に興じるというより、修練中のアスリートのような、その厳しい虚ろ顔を、彼らは見つめた。濡れ髪の闖入者が紙煙草に火を付けてゆっくりと煙を吐き出すと、彼らは話を再開した。


「この街はスケーターにやさしくない」スケートボードを抱えた鬼頭は最後に呟き、立ち上がって煙草を消した。その声も鋭い知的な眼も、表現を禁じられた無念と哀しみを帯びていた。私は彼を通し、派手な刺青の三人が気怠く後に続いた。


もうやがてスウェットに涼む、波音と景観の公園が待っている。排除された騒音の行き先は知らず、ギターの弦を新しく貼り替えた。また大きな犬を連れたヨーロッパ人の若夫婦に聴いてもらえるだろう。ピンクや黄色のパジャマと、海風に混じる異国が匂う暗がりのワイシャツの、インド人の男女が青春の宴会に弾ける傍ら、泥酔も改め素面の夜に。都心の喧騒のカラオケ店を出ると、とんでもない大雨で、その声援に喜んで濡れた。


But there's no danger

It's a professional career


傘を持っても持たずとも、誰もが立ち止まるか走るかしている雑踏の中、コンビニのアイスコーヒーの乱暴な雨割りを楽しみながら歩けば、詩と詩人は私以外の全てだった。


歌詞引用:Oliver's Army / Elvis Costello

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