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夏休みの作文──向井秀徳へ

8月17日

「煙草の匂いがばれて、親にここを蹴られました」門限のある、まだ酒を一滴も飲んだことのない、大きな綺麗な瞳のお嬢様は、レースの胸を指して言った。雪のように白い女はベッドで痙攣し、声をかけても、名前を呼んでも、揺り動かしても、宙を彷徨う目線は合わず、男は狼狽した。数分後なのか、女は何も言わずに微笑み、透明なる文学少女/バンドガールに戻ったのだろうか。ベースを抱え、大学の仲間たちと The Police を演奏するために部屋を出て行った。


吉岡里帆と向井秀徳のラジオを聴いて、改めて向井さんに感動した。「ちょっと正直ね、わたしね、この黒眼鏡で一回遮断しないと、恥ずかしくてしゃあない、やりにくくてしゃあない。ちょっと離れてもらっていいですか」震える恋心の負目は、それを凌ぐ狂気と、もう孤高のような美意識で研ぎ澄まされたロックンロールへ──なんでおれはこんなところでこんなことしてる──後味としての、京女への引っ掛かりは、偏見ではなく、直感でもなく、ちょっとだけ知り過ぎているからに過ぎない。


余計だけれど、向井秀徳は、服ではない方のワンピースの作者と同じ感覚でも、シンパシー関係でもない。読めないものは読めないのだ。


女将さんに惚れ、通い始めた。「来月まで来ないって言ったじゃない」「今日まで飲む。今日でおしまい」「大丈夫なの」「それでさ」「ちょっと待って。今料理しているから。背を向けてしゃべれないでしょ」


毎朝、スポーツウェアを着て、ローソンでアイスコーヒーのメガサイズを買い求め、海辺まで歩き、ジョギングして帰った。木々、太鼓、海風、日差しの余韻に、冷たい水のシャワーで汗を流す、その裏切らぬ喜び。酒を飲み始める前に、女性たちが弾くモーツァルトのピアノソナタを聴いて、読めそうな本を読んでいた。良かったとしか覚えていないような、ジャン・ユスターシュとヴェンダース/ハントケの若い映画を、毎晩一本ずつ、部屋の壁に映した──都会のアリス、サンタクロースの眼は青い、ぼくの小さな恋人たち──暗がりに酔ったら女将さんを見に行った。


最後の日、休憩する工事警備員たちのお揃いのアイスバーが、一斉に光を反射して白く微震し、微響するようだった。喫茶店の前で、上がり続ける気温に倒れるようなお爺さんに水を買って渡した。彼はくしゃくしゃのハットを脱いで頭を下げた。ジョギングを延長して汗に染まるタンクトップの男は、ショーウィンドウのブランド街に歩を緩め、今日を鑑みていた。しかし、ハイビスカスのシャツを着せても、その目もポーズもちゃんと熊である、モンベルの路面店の入口の大人熊は即刻撤去すべきだろう。お店のために。


......太陽を直視した。風を受けた水面のように輪郭を絶えず揺らしている。顔を、腕を、足を、愛撫する。目を閉じた。全てが真っ赤に染まった。その眼球を溶かすような強烈な赤に満足した。名残惜しいままに目を開いた。しばらく立ち尽くして余韻に浸った。これからは太陽が肌を撫でてくれる......


唯一過去から、一旦救出したテキストをなぞっていた。素晴らしく華やかにアクセントの効いた、時に瞳だけが揺れる、女将さんの小さな顔が何度も何度も浮かんだ。それだけはっきりと顔が思い浮かべられるのは、初めてかもしれなかった。


歌詞引用:はあとぶれいく / 向井秀徳 - UR LIFESTYLE COLLEGE バージョン



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