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生活を愛するのは、きみではなく、季節である

2025年3月23日

完璧な生活をしているなんて誰も言っていない。贈り物の高級みかんを腐らしている。足の爪が掛け布団に引っかかって糸が伸びた。刈り取った欠片をキッチンペーパーに丸め、玄関で口を開けている一杯のゴミ袋へよそ見してほうったら入っていた。片方の柄が曲がっていたのは、お気に入りではない方の度付きサングラスだった。水色のゴミ袋の結びを掴み、クリーニング屋に預けていた春の衣類を取り返しに外に出たら、遊びに決然とした半袖の子どもたちが握るペットボトルが光った。いちご柄のスカート、ひまわり柄の日傘、かっこいい王子様だったよ。黒いジャケットを片腕に、坊主の中年男性が日陰の縁石を踏み越えて日当たりの道路を歩き始めた。


いい匂いのポロシャツをかぶって、選んだCDケースは空で、聴きたかったわけでもないような、The Bandの古いCDを壁掛けのプレイヤーに回していた。


When you believe, you will relieve the only soul that you were born with to grow old and never know 窓も扉も開けるようなオルガンの通低音に、何もかも捨てていいような風が、この狭い部屋に、山から海に、吹き抜けた。目が滲んで時のない音楽に踊ったら、久しいまでに身体を揺らし疲れ、床を拭いたばかりの清潔な台所にひざまづいていて、もう別に死んでもいいかな、は冬の眠りの世迷言であると知った。


強い日差しに、原稿を挟んだクリアファイルで顔を隠した。電車の向かい席に座った若い女のむき出しの太ももさえ、彼女の隣は父親のようだったし、クリアファイルで隠した。つまり、便利である。

歌詞引用:When You Awake / The Band

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